聖域都市ニューヨーク サンクチュアリ・シティの行方

波多野 綾子

IMADR特別研究員

 

この数ヶ月、様々なヘイトスピーチ、ヘイトクライム、移民・難民問題に関するニュース記事があふれていますが、今回は「サンクチュアリ・シティ」について絞ってお伝えしたいと思います。

「サンクチュアリ・シティ(Sanctuary City、聖域都市)」という言葉は、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスなどの不法移民を保護する都市及びその政策を例えて広く使用されています。例えば、自治体の多くは、不法入国者の取り締まりを行う捜査機関である移民・税関執行局 (Immigration and Customs Enforcement, ICE)1と重大な犯罪者と疑われる、あるいは有罪判決を受けた移民を拘束し引き渡すために連携を行っていますが、サンクチュアリ・シティはICEの協力要請のすべてを履行しないなど、不法移民に寛大な政策をとっています。2017年1月、トランプ大統領は、サンクチュアリ・シティに対し連邦資金を交付せず、速やかに不法移民を拘束し国外退去させるよう求める大統領令に署名しました。ニューヨーク市のデブラシオ市長はじめ、他のサンクチュアリ・シティの長らがこの大統領令に強い抵抗を示したのに対して、本年4月には再び、米国司法省から複数のサンクチュアリ・シティに対して、逮捕者の在留資格の情報を開示しないと連邦資金を交付しないという「脅し」も行われました。

しかし、2017年4月25日、カリフォルニア州サンフランシスコの連邦地裁は、上述の大統領令の差し止めを命じる仮処分を出しました。同地裁のオリック判事は、本大統領令は各自治体の資金を不当に奪い取る可能性があり、合衆国憲法修正第5条(適正手続、財産権の保障)に抵触し違憲であると判じ、更に、憲法は大統領にではなく、議会に補助金支出の権限を与えており、大統領令が連邦政府の補助金に新たな条件を加えることはできないとして、本大統領令が合衆国憲法修正第10条(州または人民に留保された権限)と三権分立にも違反する可能性があると指摘しています。この処分により、訴訟を起こしているサンクチュアリ・シティや、その他の地域への連邦補助金支出が可能になるとされています。

その後、カリフォルニア州議会はサンクチュアリ・シティとして不法移民の保護を法制化する法案を9月に可決し、同月イリノイ州シカゴの連邦地裁もシカゴ市の訴えを認め司法省による治安関連の補助金停止措置の差し止めを命じました。これに対して、米司法省は、移民当局への協力を制限する都市・州レベルの政策は犯罪者の「最大の味方」になっているとして批判を強めています。

このように、サンクチュアリ・シティをめぐる、連邦政府・地方自治体・裁判所の攻防は続いていますが、トランプ大統領の就任後も、「ニューヨークはサンクチュアリ・シティだ、私たちは移民と共にある」と語っていたニューヨーカーと移民の人びとの言葉と、自由の女神に刻まれた以下の詩を胸に、本連載を終えたいと思います。

「我にゆだねよ 汝の疲れ果てた 貧しい人びとを 自由の空気を求めて 汝の岸辺に押し寄せる うちひしがれた群集を 戻る家もなく 嵐に弄ばれた人びとを 我がもとへ送りとどけよ 我は 黄金の扉のかたわらに 灯火をかかげん」(エマ・ラザルス 1883年。訳筆者)

今まで読んでいただき、どうもありがとうございました!

1 国家安全保障省傘下の捜査機関として2003年に設置。トランプ大統領のもと、事実上捜査対象を拡大し取締りを強化しているとされる。