レイシズムと複合差別-国連人権理事会の討議にみる-

 

小森 恵

IMADR事務局長代行

 

2017年9月25日、国連人権理事会第36会期は、「人種主義、人種差別、外国人嫌悪および関連する不寛容における複合的で交差する差別が、女性および少女の人権の十分な享有に及ぼす影響」に関するパネルディスカッションを行った。これは、国連のあらゆるレベルの人権議論において差別の交差性、とりわけマイノリティ女性に対する複合差別と暴力が欠くことのできない課題になっていることを示している。3時間に及ぶ議論は結論を導きだすことが目的ではなく、問題をあらゆる角度から検証して今後につなげるためのものであった。以下、そこでの発言について駆け足で紹介する。

パネリストを代表して、国連人権高等副弁務官のケイト・ギルモアは、「複合的で交差的な形態の差別は蜘蛛の巣のように欠乏の網を張り巡らせており、その影響を最大に受けているのは特定の集団に属する女性と少女である。とくに人種、民族、宗教などの要素が関わってくると、不平等は一層深まり、法のもとでの平等な処遇、公平な裁判そして救済へのアクセスの権利が侵害される。マイノリティグループの女性たちの多くは貧しさの中にあり、それによるさまざまな社会経済的困難に直面している。アフリカにルーツをもつ女性たちが出産時に亡くなる率は平均の3倍以上であり、EU諸国のロマの女性たちが16歳以降も学校にとどまる率はわずか23%である。グァテマラでは先住民族女性の64%は土地、貸付あるいはその他の資源へのアクセスをもっていない。フランスではセネガル系のルーツを示すような名前の女性は、フランス人の名前の女性より、採用試験の通知を受ける率は低い。紛争が起きればマイノリティ女性や先住民女性の人権は追加の攻撃にさらされることになり、人種や民族に基づく女性に対する暴力は今や武器の一つになっている。マイノリティ女性と少女が声をあげ、政治と社会に意味ある参加ができるようにしなければならない。すべての人が享受していない発展は持続性がない。周縁化と排除という負の循環を支える人権侵害には地球上のどこであれ居場所はない」と述べた。

女性差別撤廃委員会委員のヒラリー・ベデマーは、「交差性とは二つあるいはそれ以上の種類の差別が不平等を生み出している状態である。交差性は女性差別撤廃条約のもとでの国家の義務を理解するうえで基本的概念となる。国家は交差する差別とその影響を法的に禁止しなくてはならない。交差性を十分理解するには、暴力の定義に戻らなくてはならない。そこには精神的苦痛を強いる暴力も含まれなければならない」と述べた。

2015・2016年のベルギー国連青年代表を務めたワルダ・エル・カドゥリは、「ムスリム女性は解放されなければならないというステレオタイプな描き方は問題である。公務員が宗教的な着衣で仕事をしていても、規則に沿って職務にあたっている限り、国家機関の中立性を損なうことにはならない。目に見える宗教的多様性は、中立性を証明している。宗教的シンボルの強制的な排除は、一部の大衆迎合の右翼政党が主張するような中立にはならない」と述べた。

人種差別撤廃委員会委員長のアナスタシア・クリックリーは、「委員会は人種差別が女性に与える影響の調査において先駆的な役割を果たしてきた。2000年、委員会は人種差別のもつジェンダーの側面に関する一般的勧告を採択し、その現象についてもっと系統的に調査するよう締約国に求めた。委員会は、条約に対する国家の関心が低いことを認識している。とりわけ委員会は、アフリカ系住民およびマイノリティに属する女性に対するジェンダーと人種差別の交差性に注意を払ってきた。また、移住女性が人種差別に防御がないままさらされている事実を確認してきた。持続可能な開発目標(SDGs)では、開発を語るうえで人権が中核的な存在となっている。SDGsは人種差別に取り組む貴重な機会となっている」と述べた。

■各国の代表およびNGOの発言

チュニジア:女性と少女に対する差別はすべての社会のすべてのレベルに残っている。女性の権利の文化を広げ、差別と暴力を防止するために国際的な協力が必要だ。

EU:国際人権の法的枠組みは堅固であるが実施が伴っていない。批准した条約を厳格に実施するようすべての国に求める。

パキスタン:ヒジャブをまとう女性に対するステレオタイプな対応に懸念を抱く。着ている物だけを見てその女性に憎悪の言葉を投げつけるのは暴力である。

コロンビア:しばしば女性と少女にディセントワークの機会が保障されていない。一部集団の女性と少女は性暴力と夫による殺害の危険にさらされている。

イスラエル:差別の交差性は幾重もの不平等の層を作ってきた。イスラエルは特定の集団に対する差別と暴力にさまざまに取り組んできた。

モンテネグロ:我が国はすべての形態の差別、とりわけ人種差別との闘いに注意を向けてきた。反差別の法律の枠組みの強化に努めてきた。

エクアドル:我が国は政策にジェンダー、民族文化的および年代別のアプローチを取り入れ、特定の集団も権利を享有できるよう保障している。

ギリシャ:差別の交差性は女性と少女による人権の十分な享有をしばしば妨げている。人権高等弁務官による声明は、世界に蔓延するこの差別に取り組むうえで、非常に有用なツールとなる。

ブルガリア:あらゆる形態の差別を防止・撤廃し、異なる民族、宗教あるは言語集団に属する人びとに対する理解と寛容を生み出すため一貫した政策を続けてきた。

メキシコ:女性と少女に対する人種差別や外国人嫌悪をなくすには、さまざまな分野での取り組みが必要だ。残念ながら、メキシコでは依然として肌の色によって教育や雇用の機会へのアクセスが異なる。

シエラレオネ:複合的な差別を受けている集団はハシゴの下に置かれたままだ。国際社会がSDGsに向けて進んでいるなか、彼女たちに対して特別な注意を払わなければならない。個別の集団ごとに細分化された実態を示すデータは、SDGsの実施において重要な役割を果たす。

カナダ:アイデンティティに基づく複合的で交差的な差別と暴力を受けたとき、女性はさらなる人権侵害と暴力の危険にさらされる。これは特に先住民族の女性と少女について言える。

バングラデシュ:いかなる理由であれ宗教的マイノリティに対する暴力や差別にはゼロ・トレランスのアプローチを維持してきた。移住労働者、とりわけ女性の移住労働者の安全な環境を促進するためには、移住労働者権利条約を批准しなくてはならない。

ボリビア:国連人権理事会諮問委員会の調査報告は先住民族女性に対する複合差別を強調している。国際人権法は彼女たちをそうした差別から守るために効果的に機能しているのだろうか。

モルディブ:人種主義を背景に、女性と少女に対する差別、ヘイトスピーチ、暴力が高まっていることに強い懸念をもつ。

ブルキナファソ:女性と少女の状況は、特に権利の侵害が人種差別から来ている場合、人道を脅かす問題になる。人種主義と外国人嫌悪は女性と少女の状況を悪化させている。我々は幼児婚や女性器切除などの有害な慣例をなくす取り組みを続けている。

IMADR:人種差別を受けているグループに関する情報収集が乏しい。例えば、インドのダリットや日本の部落女性は歴史的に差別を受けてきたが、彼女たちに関するデータはほとんど存在しない。実態の把握が急がれる。

アクションカナダ:台頭しているナショナリズムやポピュリズムは、“ブラックボディ”を退廃と見る植民地主義の遺産を追従している。黒人女性と移住女性は特に差別の複合性に影響を受けている。

クエーカー教徒友好世界委員会:刑事司法制度における複合差別の問題を強調する。多くの国において、マイノリティを背景にもつ女性と少女は高い率で投獄され、不釣り合いな判決を受け、劣悪な監獄の条件に耐えている。

■むすびとして出されたパネリストたちの発言

差別は開発と民主主義の前進を阻む。国が義務を果たしているかどうかしっかりとモニターすべきだ。データ収集と実態把握は重要だが、差別に対するアクションをとることも重要だ。問題解決に女性たちを巻き込むべきであり、意思決定への参加を保障すべきだ。交差的な差別がもたらす影響について意識を高める取り組みが求められる。

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