ネパール:ダリット女性に対する暴力をなくすために

小森 恵(こもりめぐみ)

事務局長代行 ダリット部落プロジェクトコーディネータ

 

IMADRは浄土宗平和協会の支援をえて、ネパールのパートナー団体であるFEDO(フェミニスト・ダリット協会)との協働でダリット女性の福利と権利向上のためのプロジェクトを2012年から進めてきました。この2年は女性に対する暴力撤廃の視点から、事業主体であるFEDOパルサ支部の女性たちが自らの生活から暴力について問い直す取り組みを進めてきました。3年目に入るにあたり、FEDOパルサ支部から送られてきた2016年度の報告の一部を共有します。

効を奏する近隣レベルの啓発活動

パルサ支部には約20の女性グループがあり、日々の活動はグループ単位で行なわれています。暴力削減のプロジェクトも基本的にはグループレベルで取り組まれています。プロジェクトの一つに女性たちの能力向上とリーダーシップ育成のトレーニングがあり、持参金制度、子どもの就学、女性に対する暴力の通報などがテーマになりました。その結果、「女性たちが暴力に対して徐々に声をあげるようになった」「148人の子どもが学校に入学した」などの成果がありました。

もう一つの主要な取り組みは意識高揚のための戸別訪問です。ここでは特に、各家庭を訪れ、夫婦を相手にした語りかけが中心になります。2016年度は全部で207世帯を訪問し、461人の女性、502人の男性が対象となりました。ここでも持参金制度や子どもの就学がとりあげられました。持参金制度はネパールに長年続く慣行であり人びとを苦しめてきました。近年ではバイクや高価な家財道具あるいは現金が要求されるそうです。幼児婚は今も起きている問題で、女子の就学率の低さと密接に関係しています。戸別訪問により、これら問題に関する人びとの意識が少しずつ変化してきています。

その他、2016年は夫婦トレーニング、地区レベルでの啓発事業、地元の行政機関との意見交換などのプログラムに取り組みました。

ダリット女性に対する暴力削減のプロジェクトは5年の計画を立てており、2017年度もほぼ同様のプログラムが予定されています。

最後に、FEDOのダリット女性グループに入ることにより変化をとげたある女性の事例を紹介しておきます。

事例紹介:レッカ

レッカは18人のメンバーがいるサムサリマル・ダリット女性グループの代表です。FEDOのグループ活動を始めるまで彼女は普通の主婦でした。結婚して15年、パルサの一つのVDC(村落開発委員会:ネパールの最小行政区分)に夫、2人の息子と暮らし、自分の気持ちを表現することもなく家事に専念していました。ネパールの慣行に従い、彼女はいつもベールをかぶっていました。FEDOの集まりに参加するきっかけをえて、彼女は活動に関わり始めました。健康と衛生に関するトレーニングにも参加し、所得創出の活動にも関わりました。このような活動にかかわることで彼女の考え方や姿勢は変わっていきました。彼女の夫も活動に参加するようになりました。現在彼女は、UNDP(国連開発計画)の女性のアドボカシープログラムにも参加しており、地域の意識高揚センターのコーディネーターを務めています。レッカはFEDOに参加するまでは自分自身が暴力の被害者であることに気づいていませんでした。しかし今は、社会のなかに異なるタイプの暴力があると認識するようになりました。FEDOのプログラムにより、コミュニティの人びともDV、身体的暴力、社会的暴力、精神的暴力の違いに気づくようになりました。そのため、地域ぐるみで問題を特定して対処できるようになりました。