人権尊重は企業経営の土台

芦田 潔(あしだきよし)

京都人権啓発企業連絡会事務局長

 

「京都人権啓発企業連絡会」は京都府に事業所を置く63の企業で構成する任意団体で、今年は設立40年目にあたります。

1975年の部落地名総鑑事件の反省から1978年に40社で「京都同和問題企業連絡協議会」を設立し、2004年に名称を現在の「京都人権啓発企業連絡会」に変更して、部落差別をはじめとするあらゆる差別・人権侵害の解決に取り組み、企業の社会的責任を全うすることをめざしています。企業としての活動であり、その存続と健全な発展に資することが目標となりますが、自由と平等が確立された社会の実現に多少なりともつながることになればとの思いを強く抱いています。

具体的な活動をいくつか紹介します。毎年4月には会員企業新入社員向けの研修会を開催し、職場での身近な人権問題をテーマに学習してもらい、中堅社員対象には人権問題学習講座としてタイムリーなテーマでの講演会を、そして経営層対象のトップセミナーでは、人権尊重の企業経営に資するような内容の講演会を行っています。また会員企業の人権啓発担当者を対象に、フィールドワークや情報交換会を行い、各企業での人権啓発活動のレベルアップにつなげていただいています。

また、全国13の企業連絡会で「同和問題に取り組む全国企業連絡会(全国同企連)」を構成し、毎年12月、一堂に会して共に学び連携を深める全国集会を開いています。今年は8年ぶりに京都開催となります。また、IMADRの賛助会員としてもその活動を支援しています。企業として世界レベルでの人権確立に多少なりとも貢献できれば幸いです。

「企業と人権」について、昨年のトップセミナーを思い出しながら私なりに考えてみました。近年、企業が取り組む人権課題はますます多様化しています。当団体は、採用における部落差別の問題からスタートしたわけですが、今日ではセクハラやパワハラ、メンタルヘルスや過労死問題、そして女性の活躍支援、障害者雇用、さらに性的マイノリティーの就業環境等々に拡がっています。

これら諸課題に対応するために、関係する法律の遵守、各種社内制度の確立と運用が重要ですが、ともするとマニュアル的な活動のみに陥ってしまう懸念もあります。人権尊重を企業経営の土台に据えて、すべての従業員がすべての活動を人権の視点で見る能力を身につけ、企業の体質にまで高めることが大切で、そのレベルまで自らを高め活動することで、企業の社会的責任が果たせると強く思います。

企業を永く維持発展させ、社会の変化に合わせて次の世代につないでいくことはたいへん難しいことです。一瞬の判断が企業の命運を左右し、それによって従業員を路頭に迷わせる、お客様や取引先を不幸にしてしまうようなことがあってはなりません。

近江商人の活動理念に、「三方よし-売手よし、買手よし、世間よし」という有名な格言があります。これは、売手が商品を売って一定の利益を得る、買手は商人がもたらした商品に満足する。ただし、不正な取引や世間に害をおよぼす商いはしてはならない、社会に貢献しなければならない。売手と買手、そして世間もよしで「三方よし」。これこそが商いの原点で、まさに企業の社会的責任を的確に表現しているのではないでしょうか。働く人の人権を守り、社会的にも人権を大切にしている企業こそが継続発展していく企業だと思います。

誰かの犠牲の上に成り立っている企業はやがて存続できなくなるはずです。