「需要が人身売買を拡大する」 ――国連人身売買特別報告者ジョイ・ヌゴジ・エゼイロが語る

 「性的搾取の需要、安価な労働力と家事労働者の、臓器摘出と売買の、不法養子縁組と強制結婚の、犯罪活動と物乞いの、武装集団のための搾取の需要。これらすべては、人身売買を存立させる実質的要因である」。『人身売買に関する国連特別報告者』ジョイ・ヌゴジ・エゼイロは、ジュネーブで開催された国連人権理事会への年次報告においてこう述べた。
 報告のなかでエゼイロ特別報告者は、人身売買の「需要」サイドをより広い意味で理解すべきだと述べた。彼女が指しているのはきわめて安価な物品やサービスを求める消費者の需要のことであり、さらにそれが拡大する安価な労働力への需要が、ときに人身売買犠牲者の労働力によって満たされるのである。
 特別報告者は、人身売買に関連する需要にはいくつかのレベルがあることを指摘した。国連「人身売買と闘うグローバルイニシャチブ」が明らかにしたように、それには雇用者の需要、消費者の需要(顧客すなわち売買春利用者、人身売買被害者の買い手としての製造業企業、家事労働を求める家族)、そして人身売買過程に参入する第三者の需要といったレベルがある。
 エゼイロ特別報告者は、国家、企業、NGO、そして市民社会が人身売買防止のために行ってきた、需要サイドとくに商業的サプライ・チェイン(供給プロセス)における各種の需要に働きかける取り組みを紹介した。
 「グローバル化した現代世界においては、サプライチェーンにおける人身売買のリスクは、農業から繊維産業、製造業、そしてサービス業まで多くの経済セクターにおいて深刻である。しかしそうしたリスクは、国家によっても産業界自身によっても、適切に対処されてこなかった。」
 国家による人身売買への対応について、国連特別報告者は、国家が女性や少女を対象とした商業的な性的搾取だけを取りあげることが多く、強制労働や臓器売買のような他のタイプの人身売買を等閑視してきたと指摘した。
 エゼイロ特別報告者は、国家が人身売買などの人権侵害に対する保護の責任を負うと述べつつ、国家に、性的搾取や強制労働の需要を生み出す基本要因を分析し検討するよう求めた。
 「国家は、すべての企業に対して、国内外にわたるあらゆる活動において人権を尊重し、人身売買を防止するための適切な行動をとることへの期待をはっきりと表明すべきである。」
 「国家がいかなる形態であれ労働移民を促進ないし容易化する場合には、つねに規制と監視のメカニズムを設置する必要がある。これまでのそうしたメカニズムの不在は、人身売買を助長する効果をもたらしてきたのである」と、エゼイロ特別報告者は強調した。
さらに彼女は、人身売買への対策がかえって人権と人の尊厳を損ねるようなことがあってはならないこと、とくに人身売買被害者、移住者、国内避難民、難民および難民申請者の権利を損ねてはならないことを付け加えた。
 報告の数日前、エゼイロはドイツのベルリンにおいて、各国の人身売買対策の法と政策とそれらの実施をモニターし、評価する役割をもった報告者などの各国機関との協議をおこなった。この会合は、世界各国からの参加者にとって、人身売買の新しい傾向を分析し、この深刻な問題への最良の対応策を共有する場となった。
 会合の参加者は、「協議によって、相互に学びあいグローバルレベルで経験を交流する重要な基礎が作られ、多数の国の間で理解と協力の精神が促進されて、人身売買との闘いにおける共通の目標を達成する一歩が進められた」と述べた。 2013年7月2日 国連人権高等弁務官事務所ウェブサイトより (翻訳:古屋哲)